対象がん一覧

悪性胸膜中皮腫

当院での悪性胸膜中皮腫治療

悪性胸膜中皮腫はまれな疾患であるため、これらの組み合わせや順序についてはいまだ確立されていません。

  • 組織結果
  • がんの進み具合(病期分類)
  • 想定される治療の目標
  • 患者さんの状態(元気度や体力)、合併症(持病)や年齢

 

これらの要素を考慮し肺癌診療ガイドライン(悪性中皮腫を含む)を基に、呼吸器内科・呼吸器外科が合同でカンファレンスを行い、最適な治療法を組み合わせ提案します。そのうえで担当医より十分にご説明し、患者さんご本人と相談のうえ治療にすすんでいただきます。

悪性胸膜中皮腫とは?(原因・発生・進行)

肺は、その表面を胸膜(きょうまく)という袋状の膜に包まれています。
悪性胸膜中皮腫とは、この胸膜から発生する悪性腫瘍で、比較的まれな腫瘍です。
胸膜正常の胸膜は食品用ラップ程度の厚さ(数十μmマイクロメートル)ですが,がん化すると数 mm以上に肥厚し、進行すると胸水(きょうすい)が貯まります。

▶悪性胸膜中皮腫の症状
初期では症状はとくになく、検診などで胸水として指摘されることがほとんどです。進行すると胸膜の腫瘍が大きくなったり胸水が増えたりすることによる胸の痛みや息苦しさ、咳などの症状が出現します。しかし、これらの症状は悪性胸膜中皮腫にかぎった症状ではなく、ほかの病気でもよくみられるため、診断に時間がかかることも少なくありません。さらに進行し、ほかの臓器に転移した場合は転移した先の臓器によってさまざまな症状が起こります。



▶悪性胸膜中皮腫の種類
悪性胸膜中皮腫は「上皮型(じょうひがた)」、「肉腫型(にくしゅがた)」、その両方が混ざって存在する「二相型(にそうがた)」の3種類に分類されます。これらは悪性の程度が異なるため、その後の治療方針や予後に影響します。
尚、悪性胸膜中皮腫はアスベスト(石綿)が原因である場合が多く、アスベスト曝露のある方は国の救済制度が適用されます。担当医にご相談ください。

診断方法

一般的な診断から治療までの流れは、以下のようになっています。

(1)組織や細胞診断(確定診断)のための検査
悪性胸膜中皮腫は多くの場合で胸水が貯まっています。このような場合、まずは局所麻酔下に胸水を採取し、胸水中の細胞を調べます。これを「胸水細胞診(きょうすいさいぼうしん)」といいます。検査は局所麻酔を使用し、痛みのないよう工夫しています。
胸水細胞診のみで診断が確定する場合もありますが、悪性胸膜中皮腫の診断は熟練した病理医でも難しいことがあり、また、良性疾患との鑑別が難しいこともあります。そのため,胸水細胞診で悪性中皮腫が疑われた場合、胸膜の一部を採取する「胸膜生検(きょうまくせいけん)」が必要となることが多いです。胸膜生検は、全身麻酔下で、太さが1cm程度の胸腔鏡(きょうくうきょう)と呼ばれる内視鏡を胸に入れて、病変部分を観察し、胸膜の一部を採取します。
胸腔鏡以外の生検方法として、CTや超音波で病変を確認しながら皮膚から針を刺す経皮的針生検(けいひてきはりせいけん)があります。局所麻酔を使用し、痛みのないよう工夫しています。
一般的に、生検を行ってから病理診断の結果が出るまでには
数日から1週間の時間を要します。

 

(2)治療方針を決めるための検査
悪性胸膜中皮腫に対する治療方針は病期分類(ステージ 後述)に応じて決定します。病期分類の評価のために、全身の臓器への拡がりを調べる必要があります。

1)CT検査
X線を利用し、からだの断面や立体像を撮影することができます。がんの大きさや場所、リンパ節転移の有無、腹部などの臓器への転移の有無などを評価します。


2)PET検査
アイソトープ(放射線物質)を目印としてつけたブドウ糖を注射し、その取り込みの分布を撮影することで、全身のがんを検出する検査です。がん細胞は活動が盛んなため、正常な細胞よりも多くのブドウ糖を必要とします。このため、より高くアイソトープが集まっている(集積)部位をみることで、がんの拡がりをみることが出来ます。当院より検査専門施設にご紹介し検査を行います。


3)MRI検査
磁気の力を利用することで、からだの内部を撮影することができます。主に脳や骨の病変を調べるときに使用します。


4)骨シンチグラフィー
磁気の力を利用することで、からだの内部を撮影することができます。主に脳や骨の病変を調べるときに使用します。PET検査で代用する場合もあります。

病期分類(ステージ)について

悪性胸膜中皮腫は進行度によってⅠ期からⅣ期に分類されます。
最初は袋状の胸膜の中で増殖します(ⅠA期)。次に、隣接する横隔膜,縦隔脂肪,心膜や限局性に胸壁に浸潤します(ⅠB期)。さらに同側の胸腔内リンパ節に転移します(Ⅱ期,ⅢA期)。やがて,広範囲に胸壁に浸潤,心臓・大血管・気管・食道や腹腔内に進展,また対側の胸腔内リンパ節に転移します(ⅢB期)。やがて遠隔臓器に転移します(Ⅳ期)。

日本肺癌学会編:患者さんのための肺がんガイドブック2019年版.153.金原出版

治療方法

外科治療、放射線療法、化学療法(薬物療法)、緩和治療があり、これらを組み合わせ治療していきます。

日本肺癌学会編:患者さんのための肺がんガイドブック2019年版.66.金原出版

 

(1)手術について
一般的には病期分類Ⅰ〜Ⅲ期で「上皮型」の場合に選択されます。術式は、胸膜のみを切除し肺は温存する「胸膜切除(胸膜切除)/肺剥皮術(はいはくひじゅつ)」と、胸膜と肺をまとめて切除する「胸膜肺全摘術(きょうまくはいぜんてきじゅつ)」があります。どちらもからだへの負担が大きい手術ですので、術前の全身状態の評価に基づいて、メリットやデメリットについて外科医とよく相談し決めていきます。

(2)化学療法(薬物療法)
薬剤を点滴または内服で体内に取り入れ、がんの増殖を抑えたり成長を遅らせたりする治療です。体内に入った薬は全身をめぐるので、他の臓器に転移している場合にも効果を期待できます。患者さんのがんの性質、体力や希望などに合わせた化学療法をご提案します。
悪性中皮腫で使用する薬剤は、「免疫チェックポイント阻害剤」「細胞障害型抗がん剤」があります。薬剤によっては入院での治療となりますが、いずれも普段の生活をしながら治療を続けることが可能です。



  • 細胞障害性抗がん薬は、細胞の増殖の仕組みに着目して、その仕組みの一部を邪魔することでがん細胞を攻撃する薬です。がん以外の正常に増殖している細胞も影響を受けます。
  • 免疫チェックポイント阻害薬は、ご自身の免疫の力を発揮させ、がん細胞を攻撃する力を保つ薬です。

 

治療前には主治医より説明後に、薬剤師外来にて薬剤師より治療計画や副作用に対する説明などを行い、患者さんが安心して正しい方法で治療を始められるようにサポートいたします。また、投与期間中も、主治医、看護師、薬剤師、口腔外科、栄養管理士、臨床心理士がチームを組み、少しでも快適に治療が行えるようにサポートいたします。

<当院の化学療法室>

 

(3)放射線療法について
単独で行われることはまれで、多くは集学的治療の一環として外科治療や薬物療法と組み合わせて行われます。とくに胸膜肺全摘術後の補助療法として効果が期待されています。また、再発時にも局所に対する放射線療法が行われることがあります。

 

(4)緩和治療について
緩和ケアとは、がんと診断されたときから、クオリティ・オブ・ライフ(QOL:生活の質)を維持するために、がんに伴う体と心のさまざまな苦痛に対する症状を和らげ、自分らしく過ごせるようにする治療法です。がんが進行してからだけではなく、がんと診断されたときから必要に応じて行われ、希望に応じて幅広い対応をします。
本人にしか分からないつらさについても、積極的に医療者へお伝えください。