対象がん一覧

肝臓がん

当院での肝臓がん治療

当院では、消化器外科・消化器内科・放射線診断科が合同で行うカンファレンスによって、治療前診断や治療方針を十分に検討します。治療ガイドラインをベースとしたうえで、患者さん個々 の状態、価値観や希望に寄り添って治療方針を相談していきます。また、肝細胞がんは再発を起 こしやすいがんであり、生涯にわたり複数回の治療を要することがあります。その場しのぎの治 療ではなく、将来も有利に治療が進められるような方針を選択します(例:肝切除時になるべく 残肝が多く残るような手術方針を追及するなど)。

肝臓がんとは?(原因・発生・進行等)

肝臓がんとは、肝臓にできるがんのことを言いますが、これは 肝臓そのものからできてく る原発性肝がんと、他の臓器(胃や大腸など)から肝臓に転移してきた転移性肝がん に大き く分けられます。さらに、原発性肝がんはその由来する細胞によって、肝細胞がん、胆管細胞 がん、その他に分けることができますが、これらのなかで肝細胞がんの占める割合が 95% と 最も多いため、一般的に肝臓がんというと肝細胞がんのことを指します。

肝細胞がんの特徴として、発がんの背景に慢性肝障害や肝硬変があることが挙げられます。 8 割が B 型・C 型肝炎ウイルスによる肝炎ですが、近年ではその他の慢性肝障害(アルコール 性肝障害や非アルコール性脂肪肝炎:NASH)が増加傾向にあります。再発を起こしやすい癌 であることが知られており、診断がついてから長期間生存後にも再発・治療を繰り返すことが しばしばあります。死亡数は肺がん、大腸がん、胃がん、膵臓がんに次いで 5 番目に多い疾患 です。

2018年部位別癌死亡



肝細胞がんの進行度と肝予備能
肝細胞がんがどの程度進行しているかを表すのが、病期(ステージ)といわれるもので、StageⅠ~Ⅳで分類されています。肝臓がんのステージは、がんの局所進行の程度(大きさ、数、大きさ、周囲脈管への広がり)と 転移の程度 の組み合わせにより決定されます。

また、肝細胞がんの病期と並んで治療方法に大きく関わってくるのが、肝予備能(肝臓がどのくらい障害されていて余力がどの程度か)です。後述するように、肝予備能が十分であれば肝臓や体への影響の大きな治療(例:大きな肝切除)が可能ですが、肝予備能が不十分な場合には治療選択肢は限定されてきます。主に用いられる評価方法はChild-Pughスコアと肝障害度分類(Liver Damage)です。


☞肝細胞がんの病期(ステージ)

日本肝癌研究会編「臨床・病理 原発性肝癌取り扱い規約 第6版補訂版」p.26(金原出版)より一部改変して転載

 

☞肝予備能の指標:Child-Pugh scoreと肝障害度(Liver damage)
◆Child-Pughスコア
下記項目で算出し合計点で分類する。5-6点:A、7-9点:B、10-15点:C


◆肝障害度分類(Liver Damage)

 

診断方法

一般的な診断から治療までの流れは、以下のようになっています。


□血液検査
腫瘍の部位や性状を確認したり、肝臓の状態を評価したりします。体に負担が少なく、ウイルス性肝炎の既往のある患者さんへのスクリーニング検査に用いることがあります。

 

□超音波検査
腫瘍の部位や性状を確認したり、肝臓の状態を評価したりします。体に負担が少なく、ウイルス性肝炎の既往のある患者さんへのスクリーニング検査に用いることがあります。

□CT検査
X 線を使って、体の断層写真を撮影します。肝細胞がんの局所進行の評価、転移の有無の判定が 行われます。膵臓がんの正確な診断のために、主 に造影剤を使用した検査を行います。

□MRI検査
CT 検査と同様に断層撮影を行う検査です。X 線ではなく強力な磁気を利用した検査法です。
肝細胞がんに類似した腫瘍との鑑別に最も有用な検査です。CT 検査と同様に、特殊な造影剤 などを用いて病変を詳細に観察します。

 

 

治療方法

肝細胞がんの治療は多岐にわたりますが、がんの状態(病期など)と肝予備能、そして患者さん身体状況を天秤にかけながら、患者さん個々人に合った適切な治療を選択していきます。下に示すのは国内の診療ガイドラインで提唱されている治療アルゴリズムです。肝細胞がんの状態と並んで、肝予備能の指標が治療方針決定に大きく影響することがわかると思います。

治療アルゴリズム

日本肝臓学会 編「肝癌診療ガイドライン2017年版補訂版」2020年.P70.金原出版より一部改変して転載

□肝細胞がんに対する手術
(1)肝切除
 肝細胞がんに対する手術は、肝臓の一定の領域を取り除くことで腫瘍を除去する「肝切除」です。がんを体から取り除いてしまうため、他の治療法に比べて最も確実な方法と言えます。一方、肝臓は生命維持に不可欠な臓器であり、切除可能な肝臓の容量には限界があります。もしも残った肝臓の容積が生命維持の必要量を下回った場合には、がんは取り切っても命に関わってしまうという矛盾に陥ります(術後肝不全)。肝予備能の低下している患者さんでは、術後肝不全を防ぐ観点から切除可能な肝臓の容量はさらに少なくなります。
 前述の治療アルゴリズムにある通り、肝切除の適応となる肝細胞がんは基本的に肝臓以外の臓器に転移を認めず、腫瘍の数が3個以下の場合となります。実際の術式選択は、手術の可否も含めて、予定される肝切除量と肝予備能のバランスから決定されます。


☞ 手術の合併症について
 肝細胞がんに対する肝切除術は、切除容量の少ない部分切除などの術式は比較的安全に行われる一方、切除容量の大きな術式においては術後肝不全をきたす可能性があり、手術に関連する死亡などの重篤な合併症をきたすことがあります(術後90日以内の死亡率:1区域切除 2.7%、2区域:3.9%)。このため、手術を行う前段階での術式(手術の可否も含めて)を慎重に検討することが大切です。また、肝切除では一般的な腹部手術の合併症に加えて、肝臓で合成される胆汁という消化液が肝臓の切離面から漏れてしまう合併症(胆汁瘻)など、肝切除特有の合併症がおこりえます。


(2) 腹腔鏡下肝切除
 腹腔鏡手術とは、腹部にあけた穴からカメラや器具を挿入して、モニターを見ながら行う手術です。開腹手術と比較すると、傷が小さく体への負担が少ないことが知られています。すべての患者さんに腹腔鏡下肝切除の適応があるわけではありませんが、がんの部位や術式などから可能な場合には積極的に実施しています。

(3) ICG蛍光法併用腹腔鏡下肝切除
 Indocyanine green(ICG)と言われる薬剤を注射することにより、ICGの蛍光特性を利用し、肝臓を手術中に染色することができ、切離範囲を同定することができます。近年このICGを利用した腹腔鏡下肝切除術が普及しつつあり、当科でもいち早く導入し、手術時に利用しております。

☞ 手術成績
 下に示すのは当院における肝切除数と腹腔鏡手術の割合です。県下有数の手術件数があり、近年では手術全体に占める腹腔鏡手術の件数が増加傾向にあります。また、術後在院日数が短いのが当院の特徴で、平成30年のデータで神奈川県内2番目の成績でした。

☞ 当院の特徴:高度技能専門医認定施設
 肝細胞がんの手術をはじめとする肝胆膵高難度手術において、手術に関連した死亡率や合併症率は手術症例数の多い施設(ハイボリュームセンター)ほど少ないことが知られています。当院は日本肝胆膵外科学会の認定する「高度技能専門医認定修練施設A」に認定されており、県下有数のハイボリュームセンターとして認定されています。神奈川県内では、当院を含め県立がんセンターや大学病院など7施設のみが認定されています。


□肝細胞がんに対する内科治療
 がんを確実に取り除くという観点からは手術は最も確実な方法ですが、がんの進行、あるいは肝予備能が悪いなどの理由で手術ができない患者さんには、内科的治療を行います。実際には、放射線治療(サイバーナイフなど)、カテーテル治療(肝動脈化学塞栓療法など)、化学療法(抗癌剤治療、分子標的薬)などを行います。当院では、個々の患者さんのがんの性質、体力や希望などに合わせた治療法をご提案します。また、化学療法を行う患者さんのための薬剤師外来を設けており、薬剤師より抗がん剤の必要性についての説明、治療計画や副作用に対する説明などを行い、患者さんが安心して正しい方法で治療を続けていただけるようサポートいたします。

(1) カテーテル治療(肝動脈化学塞栓療法:TACE)
 肝細胞がんは、一般的に肝動脈の血流が豊富になり、腫瘍への栄養を供給するようになります。肝動脈化学塞栓療法(TACE)は、腫瘍を栄養する肝動脈内に血管内カテーテルを使用し、抗がん剤を注入したうえで、塞栓物質を注入し栄養動脈を塞栓することで腫瘍を阻血壊死に陥らせる治療法です。

(2) サイバーナイフ
 サイバーナイフは、ロボット型放射線治療装置で、従来の方法では照射できない患者さんにも優れた効果が期待できます。当院でも平成23年4月にサイバーナイフが導入されました。様々な領域の癌に利用できますが、当院では消化器内科、放射線治療科と協力し、手術とサイバーナイフを組み合わせたりすることで、肝細胞癌などの肝腫瘍に対して様々な治療を施行しています。

 

診療実績

肝臓がんの治療は手術、焼灼術(ラジオ波)、塞栓術(TAE)、サイバーナイフ、化学療法など様々な治療法があるため、総合病院での治療が推奨されます。

また、難易度が高い肝臓がん手術の治療は、日本肝胆膵外科学会が認定する高度技能専門医制度指定施設での専門医による治療が推奨されています。(リンク:日本肝胆膵外科学会)当院は専門施設に認定されており、専門医が治療にあたります(表4)。当院は侵襲の少ない「腹腔鏡下肝切除術」を積極的に導入しております。2010年4月から腹腔鏡肝切除が保険収載され、手術成績も開腹手術と比較して術中出血量の軽減、術後在院日数の短縮が得られ、長期成績に差がないとする報告が多く、現在では多くの施設で安全に施行されています。さらに当院で日本内視鏡外科学会の内視鏡技術認定医が内視鏡手術を施行します。(リンク:日本内視鏡外科学会)。

 

(表4)日本肝胆膵外科学会修練施設

 

当院の治療件数

当院における肝臓の手術症例数は年々増加しております(表5)。また、神奈川県下でも有数の症例数となっており、合併症も少なく短い入院期間にて治療しております。(表6)。

 

(表5)当院における肝臓手術症例数

 

(表6)神奈川県内の病院の肝臓手術件数と在院日数

(リンク:平成27年度病院情報局調べ)

 

担当科目

消化器外科