対象がん一覧

原発不明がん

当院での原発不明がん治療

原発不明がんには、病巣の部位やがんの組織型が異なるさまざまな病態が含まれます。
当院では、原発不明がんが疑われる場合には多診療科でのカンファレンスを行い、精査・治療方針を検討し、病態に則した最適な治療法を選択しています。

原発不明がんとは

転移から見つかるがんで、その原因となる臓器(原発巣)が不明のがんのことです。

がんの多くは、必ず最初に発生した臓器(原発巣)が存在するはずです。しかし、原発不明がんは、病巣自体は組織的に転移と判明しているのですが、十分な精密検査を行っても原発がはっきりしないがんのことをいいます。

すでに転移が出現している進行期のがんのため、予後も比較的よくない場合が多く、原発を見つけるための検査が多くなり時間もかかるため、患者さんの負担も多くなるのが現状です。頻度は報告によってまちまちですが、原発不明がんと診断される方をすべてあわせると、成人固形がんの 1%から 5%を占めるとされています。

がん情報サイト「オンコロ」,「原発不明がんについて」https://oncolo.jp/cancer/cup-about

 

症状

がんは、その原発巣によって、それぞれ特徴のある症状が出現しますが、原発が定まっていないため、様々な症状や経過となります。がんが体のどこに広がっているかによって異なり、できた臓器に関連した症状があらわれます。

症状の例には、以下のようなものがあります。
1)リンパ節の腫れ
首の周り、わきの下、太もものつけ根などのリンパ節は体の表面にあるので触れやすく、リンパ節に転移した場合には痛くないしこりとして見つかることがあります。

2)胸水、腹水
胸水がたまると息苦しさが出ることがあります。また、腹水がたまると腹部膨満感(おなかが張る感じ)が出てくることがあります。

3)肺腫瘍、腹部腫瘍
肺腫瘍によって咳や胸痛などが出ることがあります。肝臓などの腫瘍の大きさや場所によっては、おなかの不快感や膨満感が出たり、おなかにしこりが触れたりすることがあります。症状がない場合でも、健康診断などで実施される胸部 X 線検査や超音波(エコー)検査で、肺や肝臓に腫瘍が発見されることがあります。

4)骨の症状(痛み、しびれ、麻痺まひなど)
骨の痛みや、骨に転移したがんが神経を圧迫することによるしびれや麻痺が起こることがあります。骨のX 線検査で異常が見つかる場合や骨折で見つかる場合もあります。

5)脳の症状
頭痛や吐き気、痙攣や手足の麻痺、ろれつが回らないなどの症状が起こることがあります。

6)全身の症状
がんによる炎症のため、全身の諸症状が出現することがあります。代表的なものとしては、原因不明の体重減少、食欲不振、倦怠感、発熱などがあります。

診断方法

原発を見つけるための検査が多くなり時間もかかるため、患者さんの負担も多くなるのが現状です。当院では、診断や治療にあたって、各科の医師がチームを組み、カンファレンスを行ったうえで、可能な限り短い期間で最適な診断を導きます。

まず、可能な範囲で全身をくまなく検査し、本当に原発がないかを調べます。


●診察(内科、外科、頭頚部、乳房、婦人科、泌尿器科など)
●血液検査(一般的項目、腫瘍マーカーなど)
●全身のCT
●必要に応じてPET 検査、MRI 検査、超音波検査
●上部消化管内視鏡検査、下部消化管内視鏡検査
●必要に応じて気管支内視鏡検査


このような全身の検査と並行して、アプローチしやすい病変の組織の一部を採取し(これを生検といいます)、顕微鏡で観察します(これを病理検査といいます)。病理学的ながんの組織の特徴から原発が推測できることもあります。一般的に病理解析には 1~2 週間程度の時間を要します。

治療方針

一般的に、がんの広がりは病期(ステージ)で表され、病期(ステージ)は治療法を選ぶために用いられますが、原発不明がんの場合、病期分類(ステージ)は今のところ設定されていません。

病気の広がりや患者さんの状態(元気度や体力)、合併症(持病)や年齢などを考慮し、各科の医師がチームを組み、カンファレンスを行ったうえで、原発不明癌ガイドラインを基に最適な治療をご提示します。

原発不明がんは、遠隔転移先で発見されたがんであるため、局所を超えて広がっている状態

(遠隔転移している)ですので、基本的には化学療法(薬物療法)といった全身療法を行います。化学療法で使用する薬剤は、主に「細胞障害性抗がん剤」になります。

場合によっては、局所の病巣に対し、放射線治療や手術摘出を組み合わせた治療を行う場合もあります。また、患者さんの状態によっては、症状に対して治療を行う緩和治療を選択する場合もあります。

 

① 特定の治療を想定できる場合(全体の約 20%)
原発巣が見つからなくても、全体の約 20%の人たちには、組織診断と全身の病気の拡がっている部位から推定された原発巣に効果のある特定の治療が利くのではないか、という傾向が見られます。その場合は、原発巣と推定されるがん腫に推奨される治療を行います。

 

② 特定の治療を想定できない場合(全体の約 80%)
残る 80%の人たちは、特定の治療は想定できないことになります。特定の治療を想定できる患者さんと比較し、予後は悪いといわれており、化学療法(抗がん剤などの薬物療法)を実施した場合と、がんに対する積極的な治療を行わずに症状緩和の治療のみを行う(ベストサポーティブケア)場合の、どちらが予後を改善するのか、という大規模な比較試験は、これまで報告はありません。このため標準治療を推奨することは難しいとされています。

しかしながら、これまで原発不明がんに対する化学療法(抗がん剤などの薬物療法)の臨床試験(薬効を確かめる試験)は国内海外でも数多く実施され、統合解析した研究では、ある程度の効果は認められており、一部の患者さんでは、がんが小さくなることで症状が和らぐことも期待されてます。

化学療法(薬物療法)は、初回の投与は入院で導入する場合もありますが、多くは外来(化学療法室)で行い、普段の生活をしながら治療を続けることが可能です。治療前には主治医より説明後に、薬剤師外来にて薬剤師より治療計画や副作用に対する説明などを行い、患者さんが安心して正しい方法で治療を始められるようにサポートいたします。また、投与期間中も、主治医、看護師、薬剤師、口腔外科、栄養管理士、臨床心理士がチームを組み、少しでも快適に治療が行えるようにサポートいたします。


                    <当院の化学療法室>



③緩和治療について
緩和ケアとは、がんと診断されたときから、クオリティ・オブ・ライフ(QOL:生活の質) を維持するために、がんに伴う体と心のさまざまな苦痛に対する症状を和らげ、自分らしく過ごせるようにする治療法です。がんが進行してからだけではなく、がんと診断されたときから必要に応じて行われ、希望に応じて幅広い対応をします。本人にしか分からないつらさについても、積極的に医療者へお伝えください。

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