対象がん一覧

肺がん

当院での肺がん治療

 「原発性肺がん」は様々な治療法があります。私たちは呼吸器外科、呼吸器内科、放射線治療科が協力して、より低侵襲で最も効果的な治療法を患者さんそれぞれに合わせて決めています。当院では「胸腔鏡下肺切除手術」「ロボット支援手術」や「定位照射による放射線治療(サイバーナイフ)」などの最新の低侵襲治療を積極的に導入しております。また「化学(薬物)療法」に関しては、治療に結びつく遺伝子診断なども併せて行い、患者さん一人ひとりに合わせ寄り添った医療を提供いたします。

肺がんとは?(原因・発生・進行)

肺を含むからだを構成する細胞は、遺伝子によって制御されています。
遺伝子には、車のブレーキのような働きをするものや、アクセルのような働きをするものがあります。遺伝子が何らかの原因によって傷つくと、無制限に増えたり、他の場所に移動してその場所で増える(転移)などの性質をもつ細胞が発生します。もともとからだには遺伝子の傷を修復したり、免疫のシステムによって異常な細胞を排除する仕組みが存在しますが、無制限に増える細胞が、さらに遺伝子の変化をおこすことで、体に害を与える細胞のかたまり(腫瘍)を形成します。これが「がん」です。
肺は、からだに酸素を取り入れ血液を介して運ばれた二酸化酸素を排出する(ガス交換)重要な役割を担っています。
肺がんとは、肺を構成する空気の通り道である「気管支」やガス交換の場である「肺胞」の細胞が、がん化したものです。

 

① 肺がんの症状
一般的な呼吸器の病気でみられる咳、痰、血痰、胸の痛み、息苦しさ、発熱などがあります。しかし、肺がんができた場所や初期には症状がほとんど出ないこともあります。

 

② 肺がんの種類
がんの組織(細胞が集まったかたまりのこと)によって、10種類以上に分けられていますが、頻度の高いものは、腺がん、扁平上皮がん、小細胞がん、大細胞がんです。
組織は大きく2種類に分類され、それぞれ「小細胞肺がん」と「非小細胞肺がん(腺がん、扁平上皮癌など)」に分けられます。
進行の速さや、治療の効きやすさ、どの薬が効くかなども、この組織の種類によって少しずつ違います。したがって、治療の前にこの組織を採取して、その種類の組織に分類されるのかを決定することが非常に重要です。1)
日本肺癌学会編:患者さんのための肺がんガイドブック2019年版.p18.金原出版

診断方法

一般的な診断から治療までの流れは、以下のようになっています。

①組織や細胞診断(確定診断)のための検査
症状があったり、検診でレントゲンやCTを行い腫瘍が見つかった場合、可能であれば病変の組織の一部を採取したり(これを生検といいます)、細胞を採取し、顕微鏡で観察し診断します。
組織や細胞を採取する方法は、気管支鏡検査、CTガイド下経皮的針生検、胸腔鏡検査などが行われます。最も多く行われているのは気管支鏡検査です。

 

●気管支鏡とは、上部消化管内視鏡(胃カメラ)を細くしたような内視鏡で、口から気管支に挿入し組織や細胞を採取する方法です。当院では、気管支鏡の先端に超音波端子の付いている超音波気管支鏡検査を行っており、診断精度のより高い方法で検査を行っています。また検査中は弱い鎮静剤や鎮痛剤も使用し、可能な限り患者さんの負担が少なくなるよう工夫しています。

 

●CTガイド下経皮的生検は、CTを撮影しながら、生検用の針をからだの表面の外側から刺し組織や細胞を採取する方法です。局所麻酔を使用し、痛みのないよう工夫しています。

気管支鏡とCTガイド下経皮的生検は、どちらも1泊2日の入院検査になります。
一般的に、生検を行ってから病理診断の結果が出るまでには数日から1週間の時間を要します。

 

②治療方針を決めるための検査
肺がんに対する治療方針は病期分類(ステージ 後述)に応じて決定します。病期分類の評価のために、肺を含む全身の臓器への拡がりを調べる必要があります。

1)CT検査
X線を利用し、からだの断面や立体像を撮影することができます。がんの大きさや場所、リンパ節転移の有無、腹部などの臓器への転移の有無などを評価します。

 

2)PET検査
アイソトープ(放射線物質)を目印としてつけたブドウ糖を注射し、その取り込みの分布を撮影することで、全身のがんを検出する検査です。がん細胞は活動が盛んなため、正常な細胞よりも多くのブドウ糖を必要とします。このため、より高くアイソトープが集まっている(集積)部位をみることで、がんの拡がりをみることが出来ます。当院より検査専門施設にご紹介し検査を行います。

3) MRI検査
磁気の力を利用することで、からだの内部を撮影することができます。主に脳や骨の病変を調べるときに使用します。

4)骨シンチグラフィー
骨の転移の有無を調べる検査です。PET検査で代用する場合もあります。

5)がん組織解析(ゲノム検査など)
当院では、得られたがん組織の遺伝子を解析し、治療薬に結びつく遺伝子を解析しています。適合する遺伝子や遺伝子変異に合わせ薬剤を選択し治療に結び付けています。
また、免疫チェックポイント阻害剤(後述)に効果の期待できる物質(PD-L1タンパク)の発現頻度も解析しています。一般的にすべての解析には組織診断がついてから1~2週間程度の時間を要します。

病期分類(ステージ)について

肺にあるがん(原発巣といいます)の大きさ、リンパ節への転移の有無や部位、転移の有無や部位によって、Ⅰ~Ⅳ期に分類されます。1)
日本肺癌学会編:患者さんのための肺がんガイドブック2019年版.p70.金原出版


小細胞肺がんの治療法を選択する際には、病期分類(ステージ)と併せて、「限局型」と「進展型」による分類も使用しています。2)
「国立がん研究センター がん情報サービス」より転載 https://ganjoho.jp/public/cancer/lung/treatment.html
日本肺癌学会ウェブサイト「肺癌診療ガイドライン2019年版 悪性胸膜中皮腫・胸腺腫瘍含む」より作成

治療方法

外科治療、放射線療法、化学療法(薬物療法)、緩和治療があり、これらを組み合わせ治療していきます。1)
日本肺癌学会編:患者さんのための肺がんガイドブック2019年版.p66.金原出版

治療は、
・組織および組織解析結果
・がんの進み具合(病期分類)
・想定される治療の目標
・患者さんの状態(元気度や体力)、合併症(持病)や年齢
これらの要素を考慮し肺癌診療ガイドラインを基に、呼吸器内科・呼吸器外科が合同でカンファレンスを行い、最適な治療法を組み合わせ提案します。そのうえで担当医より十分にご説明し、患者さんご本人と相談のうえ治療にすすんでいただきます。

 

①非小細胞肺がんの治療
病期分類に基づいて決定しますが、様々なバリエーションがあり、担当医とよく相談して方針を選択します。2)
「国立がん研究センター がん情報サービス」より転載 https://ganjoho.jp/public/cancer/lung/treatment.html
日本肺癌学会ウェブサイト「肺癌診療ガイドライン2019年版 悪性胸膜中皮腫・胸腺腫瘍含む」より作成


②小細胞肺がんの治療
小細胞肺がんの治療の中心は薬物療法です。ごく早期の場合は手術を行うこともあります。限局型の場合には、体の状態によって放射線治療を併用することもあります。2)
「国立がん研究センター がん情報サービス」より転載 https://ganjoho.jp/public/cancer/lung/treatment.html
日本肺癌学会ウェブサイト「肺癌診療ガイドライン2019年版 悪性胸膜中皮腫・胸腺腫瘍含む」より作成


③ 手術について
肺は、左右の胸腔(きょうくう)という箱のような空間にひとつずつ入っており、右は上・中・下の3つの肺葉(はいよう)、左は上・下の2つの肺葉に分かれています(図1)。
肺がんの手術ではがんを発生している肺葉を切除し、あわせてがんの転移の可能性が高いリンパ節も切除(郭清かくせい といいます)することが標準的です(図2)。1)
日本肺癌学会編:患者さんのための肺がんガイドブック2019年版.p79.金原出版


日本肺癌学会編:患者さんのための肺がんガイドブック2019年版.p79.金原出版


しかし、実際に切除する範囲は最終的にはがんの病状と身体的負担とのバランスで決定されますので、さらに大きく切除したり(拡大切除)、逆に小さく切除(楔状くさびじょう切除、区域切除などの縮小手術)したりすることもあります。
手術は全身麻酔で行われます。従来は皮膚を15cm以上大きく切開し、肋骨の間を開胸器(開胸器)という器械で開いて行うものが主流でした。
しかし最近は、切開を8cm以下と小さくとどめられる胸腔鏡(きょうくうきょう)という直径0.5〜1cmで長さ30cmくらいの棒状のビデオカメラを肋骨の間から挿入して、テレビモニターで観察しながら行う「胸腔鏡下手術(きょうくうきょうかしゅじゅつ):video-assisted thoracic surgery:VATS)」が多く行われるようになっています。「胸腔鏡下手術VATS」には、テレビモニターと切り開いたところからの観察を併用する場合(胸腔鏡補助下手術きょうくうきょうかほじょしゅじゅつ)と、テレビモニターの観察だけで手術する場合(完全鏡視下手術かんぜんきょうかしゅじゅつ)があります。1)

日本肺癌学会編:患者さんのための肺がんガイドブック2019年版.p79.金原出版


2020年9月からは、手術支援ロボット(ダビンチ)を用いた胸腔鏡手術(robot-assisted thoracic surgery:RATS)を開始しています。手術支援ロボット(ダビンチ)には、電気メスなどを装備できる3本のアームとカメラが装着されており、胸部にあけた穴からこのアームを体の中に挿入します。医師は操作部で映し出される⾼画質で⽴体的な3D画像を⾒ながらアームを操作して、がんの切除や患部の縫合などを行います。⼈間の⼿よりも緻密なロボットの動きで、安全・確実な⼿術が可能であり、さらに患者さんの負担を少なく工夫した方法で治療をおこなっています。

 

手術の方法にはそれぞれ利点と欠点があり、どの方法を用いるかについては、病状によっても変わります。担当医と相談の上で決めましょう。
手術は呼吸器外科専門医のいる施設で受けることが望ましいといわれており、当院には2名の呼吸器外科専門医が在籍しております。
出血量はおおよそ数mLから200mLくらいまでで,通常の手術では輸血が必要になることはあまりありません。手術時間は2〜4時間です。手術後は、肺を切除した後の部分に血液や空気がたまるので,ドレーンと呼ばれる管を入れて吸引します。この管は,手術後2〜4日くらい入れておきます。
手術の後は,数日以内に酸素吸入がいらなくなり,元気な患者さんは手術の翌日から歩行も可能となり、約1週間で退院でき、退院後は日常生活も可能です。また、ひとつ肺葉を切除した場合は、肺活量が2〜3割減少しますが、1年以上経つとおおむね術前と同じくらいまで回復する場合が多いです。
手術後は、定期的に外来で経過を観察いたします。

 

④ 放射線療法について
放射線療法は、高いエネルギーを持つ放射線をあててがん細胞を破壊し、がんを消滅させたり小さくしたりする治療法です。がんの治癒や進行の抑制、がんによる身体症状の緩和や延命などを目的として行います。放射線治療には、大きく分けて、根治を目指すものと、症状を緩和するものがあります。

 

1)根治を目指す放射線治療
●放射線療法単独
がんのある部位に放射線療法単独で行う治療法です。当院では年齢や肺機能の問題で手術の出来ない患者さんには、定位照射(サイバーナイフ)を選択することも可能です。
放射線治療についてはこちら

●化学放射線療法
放射線治療と薬物療法(抗がん剤治療)を併用する治療法です。副作用が強くなる場合もありますので、進行度や患者さんの状態を考慮して選択します。

 

2)症状を緩和する放射線治療
骨転移による痛み、脳転移による神経症状、がん組織による気管、血管、神経などの圧迫による症状を和らげます。

 

⑤化学療法(薬物療法)について
薬剤を点滴または内服で体内に取り入れ、がんの増殖を抑えたり成長を遅らせたりする治療です。体内に入った薬は全身をめぐるので、肺以外の臓器に転移している場合にも効果を期待できます。手術や放射線治療と組み合わせて、治療後の再発や転移を予防することもあります。肺がんは転移しやすいがんなので、化学療法はとても有効な治療法です。
近年の化学療法の進歩は目覚ましく、新たな治療薬が次々と開発されています。患者さんのがんの性質、体力や希望などに合わせた化学療法をご提案します。

肺がんに対する化学療法に使われる薬剤は、大きくわけて「細胞障害性抗がん剤」「分子標的薬」「免疫チェックポイント阻害剤」があります。これらの薬剤を単独で投与したり、組み合わせて投与します。

 

1) 細胞障害性抗がん薬
細胞の増殖の仕組みに着目して、その仕組みの一部を邪魔することでがん細胞を攻撃する薬です。がん以外の正常に増殖している細胞も影響を受けます。

 

2)分子標的薬
がん細胞に特徴的な分子を目印にしてがんを攻撃する薬です。がん以外の正常に増殖している細胞への影響を抑えられるのが特徴です。がん遺伝子検査をもとに適切な薬を選びます。

 

3)免疫チェックポイント阻害薬
ご自身の免疫の力を発揮させ、がん細胞を攻撃する力を保つ薬です。

初回の投与は入院で導入する場合もありますが、多くの化学療法は外来(化学療法室)で行い、普段の生活をしながら治療を続けることが可能です。治療前には主治医より説明後に、薬剤師外来にて薬剤師より治療計画や副作用に対する説明などを行い、患者さんが安心して正しい方法で治療を始められるようにサポートいたします。また、投与期間中も、主治医、看護師、薬剤師、口腔外科、栄養管理士、臨床心理士がチームを組み、少しでも快適に治療が行えるようにサポートいたします。 
            
                   <当院の化学療法室>

⑥緩和治療について
緩和ケアとは、がんと診断されたときから、クオリティ・オブ・ライフ(QOL:生活の質)を維持するために、がんに伴う体と心のさまざまな苦痛に対する症状を和らげ、自分らしく過ごせるようにする治療法です。がんが進行してからだけではなく、がんと診断されたときから必要に応じて行われ、希望に応じて幅広い対応をします。
本人にしか分からないつらさについても、積極的に医療者へお伝えください。
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