対象がん一覧

胃がん

当院での胃がん治療

当院では、消化器外科・消化器内科・放射線診断科が合同で行うカンファレンスによって、治療前診断や治療方針を十分に検討します。治療ガイドラインをベースとしたうえで、患者さん個々の状態、価値観や希望に寄り添って治療方針を相談していきます。
 実際の治療に伴う益と害、治療のリスクについては担当医より十分にご説明をした上で、治療にすすんでいただきます。

胃がんとは?(原因・発生・進行)

 胃の粘膜の細胞が、がん化してしまった状態が胃がんです。胃の細胞ががん化してしまう要因は1つではありませんが、ヘリコバクター・ピロリ菌の感染、高塩分食、喫煙、野菜・果物の摂取不足などが危険因子といわれています。胃がんの頻度は、悪性新生物の中で男性で1位、女性で3位であり、日本人に多い身近ながんといえます。
 胃壁の内側を覆う粘膜の細胞ががん化すると、時間経過とともに、がん細胞が胃壁のなかで増殖・進展して増大していきます。その過程で、リンパ管や血管にがん細胞が侵入してしまうと、リンパ節や他の臓器にがんが拡がっていきます。これを転移といいます。また、胃壁の外側までがんが露出してしまうと、そこから腹腔内にがん細胞がばらまかれて、腹膜への転移(腹膜播種)をおこすこともあります。
 胃がんがどの程度進行しているかを表すのが、病期(ステージ)といわれるもので、StageⅠ~Ⅳで分類されています。胃がんのステージは、がんの深さ(壁深達度)と転移の程度の組み合わせにより決定されます。

 

▶壁深達度
 下図のように、胃壁はいくつかの層で構成されています。がんは最も内側の層である粘膜に発生しますが、時間経過とともに、胃壁の中を進展していきます。壁深達度とは、どの層までがんが進展しているかを表し、T1~T4で分類されます。
   「国立がん研究センター がん情報サービス」より転載    
   https://ganjoho.jp/public/cancer/stomach/treatment.html
   日本胃癌学会編「胃癌取扱い規約第15版(2017年10月)」(金原出版)より作成

▶転移の程度
胃がんでよくみられる転移は、リンパ節転移、肝転移や肺転移、腹膜転移です。リンパ節への転移の程度は、転移個数によりN0~N3に分類されます。また、遠隔転移の有無によりM0またはM1に分類されます。
壁深達度 と 転移の程度 により、下の表のようにステージが分類されます。

「国立がん研究センター がん情報サービス」より転載 https://ganjoho.jp/public/cancer/stomach/treatment.html
日本胃癌学会編「胃癌取扱い規約第15 版(2017 年10 月)」(金原出版)より作成

下の参考資料のように、がんの初期段階のステージほど、生存率が高く、早期診断・早期治療が重要であることがわかります。

<参考資料>

「国立がん研究センター がん情報サービス」より転載 https://ganjoho.jp/public/cancer/stomach/treatment.html
日本胃癌学会編「胃がん治療ガイドラインの解説 一般用2014年12月改訂」(金原出版)より作成

「国立がん研究センター がん情報サービス」より抜粋
https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/brochure/hosp_c_reg_surv.html

 

診断方法

一般的な診断から治療までの流れは、以下のようになっています。


▶上部消化管内視鏡検査(胃カメラ)

 胃がんが疑われた場合、内視鏡検査で胃内部の粘膜を詳細に観察し、胃がんの有無を調べます。がんが疑われた場合には、組織の一部を採取(生検)します。採取した組織を顕微鏡を用いた病理検査により、がんかどうかを診断します。すでにがんの診断がついている場合には、がんの深さやがんの広がりなどを詳しく観察します。
また、がんの深さを詳しくしらべるために、超音波内視鏡検査を行うことがあります。

 

▶CT検査
X線を使って、体の断層写真を撮影します。
造影剤を使用することが多いです。
主に、がんの転移の程度を調べるために行います。

 

▶上部消化管造影検査(バリウム)
主に胃がんの胃内での部位や広がりをしらべるために行います。

 

▶審査腹腔鏡
全身麻酔で、腹部に小さな穴をあけて腹腔鏡を挿入し、腹膜転移の有無をしらべます。
腹膜転移の可能性がある患者さんにのみ行います。

治療方法

胃がんの診断がつき、予想されるステージを判定した段階で、治療方針を相談、決定していきます。
胃癌治療ガイドラインでは、壁深達度や転移の程度に応じて右図のような治療が推奨されています。
「国立がん研究センター がん情報サービス」より転載  
https://ganjoho.jp/public/cancer/stomach/treatment.html

日本胃癌学会編「胃癌取扱い規約第15版(2017年10月)」(金原出版)より作成

 

① 内視鏡治療
 経口的に挿入した内視鏡を通して、胃内の原発巣を切除し、胃がんの根治を目指す治療です。外科手術と比較して、全身への負担や術後の生活への影響が少ない治療法です。
 当院では、内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)と呼ばれる方法で行うことが多く、約1週間程度の入院治療となります。
 この治療は、転移のリスクがないと判断される胃がんに適応されます。つまり、最も早期の段階でみつかったStageⅠAと予想される胃がんで適応となる場合がありますが、がんの大きさや形、組織型などにより適応が限定されます。また、切除後の病理結果によっては、内視鏡切除では治療が不十分と判断され、追加での外科手術をお奨めすることがあります。
 日本イーライリリー株式会社が著作権を有する

 

② 外科手術
 胃がんに対する手術は、原発巣のある部位を切り取る「胃切除」と、がんが転移しやすい胃周囲のリンパ節を切除する「リンパ節郭清」をセットで行うことが基本となります。リンパ節郭清は、転移が疑われるリンパ節だけでなく、治療前の検査や、手術中には確認できない顕微鏡レベルのリンパへの転移(微小転移)をとることを目的としています。
内視鏡的切除の適応を除いたStageⅠ~Ⅲの胃がんに対して、がんの根治を目指して行われる治療です。ごく一部のStageⅣでも、根治を目指せる可能性がある場合には手術を行うケースがあります。手術は、がんの根治をめざす治療ですが、残念ながら100%根治するわけではありません。
 胃切除には、「幽門側胃切除」「胃全摘」「噴門側胃切除」などがあり、がんの部位や進行度によって切除の範囲が決定されます。胃を切除した後には、食事の経路をつくる「再建手術」も同時に行います。

 

▶幽門側胃切除
胃の中央~下部にあるがんが対象です。胃の出口側約2/3を切除するとともに、周囲のリンパ節の郭清を行います。
日本イーライリリー株式会社が著作権を有する

▶胃全摘
胃の上部にできたがんや胃の上部まで進展しているがんが対象となります。食道の終わりと十二指腸の始まりを切離して、胃をすべて摘出するとともに、周囲のリンパ節の郭清を行います。
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▶噴門側胃切除
食道と胃の境界部分にできたがんや、胃の上部にできた早期がん(StageⅠ)が対象となります。胃の入り口側約1/2を切除するとともに、周囲のリンパ節郭清を行います。
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●開腹手術と腹腔鏡下手術について

 胃がんに対するいずれの術式においても、開腹手術と腹腔鏡手術からご選択いただけます。いずれも保険適応の治療です。

 腹腔鏡手術とは、下図のように、腹部にあけた穴からカメラや器具を挿入して,モニターを見ながら行う手術です。開腹手術と比較すると、体への侵襲や負担が少なく、術後の体の回復が早いとされています。具体的には、傷が小さく痛みが少ない、出血量が少ない、在院日数が少ない、腸閉塞が少ないなどと報告されています。そのため、近年急速に広まっている手術法です。胃がんにおいては2002年より保険適応(保険で認められた治療)となり,広く行われる治療になりました。年次推移をみても,年々手術症例数が増加しているのがわかります。

 Stage Iの患者さんに対する幽門側胃切除においては、多数の患者さんにおける安全性と長期成績(がんが治る確率)を比較した試験で、従来の開腹手術に対して腹腔鏡手術が劣っていないことが証明されたため、ガイドラインにおいても標準治療として推奨されています。その他のケースでは、2019年の時点では、臨床研究的治療と位置付けられており、安全性と長期成績を比較する試験が進行中です。現状では、各施設の腹腔鏡手術への習熟度に応じて、適応を決定するように提言されています。
 当院では、腹腔鏡下胃切除が全国に広く普及する前の2001年から腹腔鏡手術の実績があり、現在まで非常に数多くの症例を経験しています。また、学会が定める内視鏡外科技術認定医という資格を持つ腹腔鏡手術に習熟した外科医が3名在籍しており、多くのケースで腹腔鏡手術での対応が可能となっています。
日本イーライリリー株式会社が著作権を有する


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●ロボット支援手術について
 ロボット支援手術とは、腹部に⽳を開けてカメラを⼊れ、その映像を⾒ながら病巣を取り除く「腹腔鏡下⼿術」の一種です。手術支援ロボット(ダビンチ)には、電気メスなどを装備できる3本のアームとカメラが装着されており、腹部にあけた穴から体の中に挿入します。医師は操作部で映し出される⾼画質で⽴体的な3D画像を⾒ながらアームを操作して、がんの切除や患部の縫合などを行います。⼈間の⼿よりも緻密なロボットの動きで、安全・確実な⼿術が可能と期待されています。

 当院では、横浜市で初めてとなる2012年という非常に早い段階から、手術支援ロボット(ダビンチ)を導入しています。
 手術支援ロボットを用いた胃切除は、2012年より非常に限定された施設でのみ行われる先進医療に認定され、当院も先進医療の該当施設に選定されました。先進医療での短期成績では、腹腔鏡手術と比較して一部の合併症の発生率が低くなることが報告されました。この結果を受けて、2019年4月よりロボット支援下胃切除が保険適応となり、保険診療としてロボット支援下胃切除を受けていただくことが可能となりました。
 保険適応になった現在でも、ロボット支援下胃切除を行うためには、さまざまな実施基準を満たさなければならず、施行可能な施設は限定されています。当院では、先進医療の段階からこの基準をクリアし、全国に先駆けてロボット支援下胃切除を行ってきています。

 

③化学療法
 いわゆる抗がん剤の治療です。薬(注射または経口)によりがんの増殖を抑えたり、がん細胞を死滅させる治療法です。抗がん剤が、血液にはいって全身をめぐるため、拡がったがんに対しても効果が期待できます。多くの化学療法は外来(化学療法室)で行います。

近年の化学療法の進歩は目覚ましく、分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬といった新たな治療薬もでてきています。患者さんのがんの性質、体力や希望などに合わせた化学療法をご提案します。
 また当院では、薬剤師外来を設けており、化学療法を受けている患者さんを対象に、薬剤師より抗がん剤の必要性についての説明、治療計画や副作用に対する説明などを行い、患者さんが安心して正しい方法で治療を続けていただけるようサポートいたします。

化学療法は、目的によって以下の2つの化学療法に分類されます。

 

▶補助化学療法
 手術と組み合わせて行われる治療で、手術の前や後に期間限定で抗がん剤の投与を行います。術後の再発リスクをさげる目的で行われます。

 

▶切除不能な進行胃がん(主にStageⅣのがん)や術後に再発してしまった胃がんに対して行われる化学療法
 根治が難しい胃がんに対して、がんの進行を抑える目的で行われます。決められた期間はありません。残念ながら化学療法でがんが根治することは難しいのが現状です。

<当院の化学療法室>

●胃切除後の生活や後遺症
 胃の一部または全部を切除することで、術後に下記に記すような症状があらわれることがあります。そのため、胃切除後は、食生活に注意する必要があり、少量ずつ、ゆっくり食べることが基本となります。術後には、栄養指導や食事指導があります。

▶食後の消化器症状
 主に食後に、下痢、膨満感、嘔気、腹痛などが出現することがあります。ほとんどの患者さんは、体重が約10%前後減少します。食事回数を増やして、少量ずつ、ゆっくり食べることで対処できることがあります。これらの症状は、術後の経過とともにゆっくり回復してくることもあります。

 

▶早期ダンピング症状
 食べた食事が急速に小腸に入ることで、食後すぐに動悸、めまい、冷や汗、腹痛などの症状が出現することがあります。食事回数を増やして、少量ずつ、ゆっくり食べることで対処できることがあります。

 

▶後期ダンピング症状
 食後2-3時間後に、低血糖となり、めまい、冷や汗、脱力感などの症状が出現することがあります。食後2時間後にアメなどの糖分を補給することで予防できます。

 

 

 

 

診療実績

担当科目

消化器外科