当院来訪者に対する 新型コロナウイルス対策の基本的な方針
2021年11月08日ニュース
当院来訪者に対する 新型コロナウイルス対策の基本的な方針
1.マスク着用の徹底
アメリカの疾病対策センター(CDC)によると、新型コロナウイルスは以下の状況で感染するとしています(https://www.cdc.gov/coronavirus/2019-ncov/science/science-briefs/sars-cov-2-transmission.html)。
- 1-2mの近距離もしくは密閉空間など換気が悪い状況では2m以上離れた状況において、感染者の会話やくしゃみ、咳などで発生する空気中に放出される粒子(エアロゾル)を、非感染者が呼吸などで吸入することによって起きる感染(エアロゾル感染)
- 1-2mの近距離で、感染者の会話やくしゃみ、咳などで飛んだ飛沫(つば)が、非感染者の眼や鼻、口などの粘膜に付着することによって起きる感染(飛沫感染)
- 感染者が会話やくしゃみ、咳などで飛ばした飛沫(つば)が、テーブルや手すりなどの身の回りのものに付着し、その飛沫を非感染者が手で触り、その手で眼や鼻、口などの粘膜に触ることによって起きる感染(接触感染)
CDCは上記感染のうち、エアロゾル感染が主な感染経路としています。また、権威の高い科学雑誌であるサイエンスも新型コロナウイルスはエアロゾルで感染すると報告しています(SCIENCE. 27 Aug 2021. Vol 373, Issue 6558. DOI: 10.1126/science.abd9149)。
飛沫感染は、実験検証したところ、会話などの場合、20cmの近距離でないと感染しにくく(Building and Environment. Volume 176, June 2020doi.org/10.1016/j.buildenv.2020.106859)、マスクを着用していると感染リスクはかなり低くなるとされています。
接触感染についても、世界保健機関は「可能性はあるが、極めて低い」と言及し(https://www.who.int/news-room/commentaries/detail/transmission-of-sars-cov-2-implications-for-infection-prevention-precautions)、イギリスの科学雑誌に掲載された論文では、ドアノブなど環境から新型コロナウイルスが感染する確率は1万分の5未満としています(Environ Sci Technol Lett. 2021 Feb 9;8(2):168-175. doi: 10.1021/acs.estlett.0c00875)。
以上のようなことから、新型コロナウイルスはほとんどの場合、エアロゾルで感染し、エアロゾルを効果的に防御することが、新型コロナウイルスの感染に有効性が高いと推察されます。
エアロゾルを防止するための対策としては、マスクの着用が有効的です。アメリカの医学雑誌であるニューイングランド・ジャーナル・メディシンでは、マスクを着用すると大小様々なエアロゾルが、マスクで捕集されると報告しています(N Engl J Med. 2020 May 21;382(21):2061-2063. doi: 10.1056/NEJMc2007800)。また、東京大学の研究では、お互いに不織布製のマスクを着用していると新型コロナウイルスの吸入を約30%まで防ぐとしています(Michael J. Imperiale, Editor DOI: 10.1128/mSphere.00637-20)。
よって、当院では病院に立ち入るすべての人に対して(不織布製)マスクの着用をお願いし、網羅的な感染対策を実施しています。
2.手指消毒剤の設置
新型コロナウイルスは接触感染する可能性は低いとされています。しかし、手を消毒することは、新型コロナウイルス以外の病原体を効果的に防御することが、1800年代から報告されています(Curr Opin Infect Dis. 1998 Aug;11(4):457-60.)。また、手についた新型コロナウイルスはそのままの状態では感染が成立せず、眼や鼻、口などの粘膜に新型コロナウイルスが付着しない限り感染しません。つまり、手を消毒(または手洗い)することによって、新型コロナウイルスの感染を効果的に防ぐことができます。
よって、当院では手指消毒剤を多くの場所に設置し、当院に来訪する人が、いつでも手軽に手指消毒できる環境を整えています。
3.病院入り口での検温
当院では病院入り口に体温測定器を設置しておりません。その理由を以下にお示しいたします。
- 新型コロナウイルスは、感染しても無症状や発熱しない人が多く、病院入り口の検温だけでは新型コロナウイルス感染者の入場を効果的に防ぐことはできません。
- 発熱があっても新型コロナウイルスに感染しているわけではなく、他疾患の影響で熱がある可能性も十分にあり、新型コロナウイルス感染者を効率的に確認することは困難です。
- 病院入り口での体温測定は外気温に左右され、正確な体温が測定できません。
- 当院では2020年4月22日から5月22日の1ヶ月間、病院入り口で来場者に検温を実施し、37.5℃以上の方を精査しましたが、1名も新型コロナウイルス感染者はいませんでした。
- 空港などでも入国者に検温を実施していますが、国内への新型コロナウイルスの流入を防ぐことはできていません。
以上のように、病院入り口の検温は新型コロナウイルス感染者を見つけ出すには効果的ではありません。特に①につきましては、医学的な論文でも検温については懐疑的に報告されています(以下の図を参照してください)。
4.身体的距離
新型コロナウイルスは、一定のウイルス量(一説には100万個程度)が粘膜に付着することで感染が成立します。粘膜に付着するウイルス量は、感染者に近ければ近いほど、また、感染者と長い時間、同じ空間をともにすると、多くのウイルスを浴びることになります。しかし、感染者とどのくらいの距離をとれば安全か、感染者と何時間いれば感染するかの線引きは困難です。アメリカの医学誌に掲載された論文では、感染者と5m離れていても、感染者と30分一緒にいても新型コロナウイルスに感染したと報告されています(Clin Infect Dis. 2020 Jul 29;ciaa1057. doi: 10.1093/cid/ciaa1057.)。
また、厚生労働省などが推奨している「1m以上の距離を確保」の根拠となった論文は、1m以上の距離をとった方の感染リスクが低くなりました(Lancet. 2020 Jun 27;395(10242):1973-1987. doi: 10.1016/S0140-6736(20)31142-9.)が、この場合のマスク着用状況には言及がありません。「1. マスク着用の徹底」で解説したとおり、マスクを着用していれば、新型コロナウイルスの感染リスクは低くなると推察されます。
よって、当院では、感染を防止する距離が明確ではないことに加えて、マスクの着用で効果的に新型コロナウイルスの感染を防止できることを根拠に、待合用の椅子などの距離を確保することよりも、マスク着用の遵守を院内に立ち入るすべての人にお願いしています。
感染管理対策室 副室長
大石貴幸