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2024年6月現在
心臓弁膜症は、息切れや動悸、疲れやすさなどの軽い症状が徐々に出てくるため気づきにくく、
失神などの重い症状が出て初めて発覚する場合や、
検診時の聴診で心雑音を指摘されて見つかることもあります。
心臓にある弁に障害が起き、本来の役割を果たせなくなった状態を心臓弁膜症といいます。心臓弁膜症には弁の閉じ方が不完全になり逆流する「閉鎖不全」と、弁の開きが悪くなり血液の流れが妨げられる「狭窄」がありますが、最も多いのは「僧帽弁閉鎖不全症」と「大動脈弁狭窄症」です。
心臓弁膜症の患者数は推定とされており、なかでも大動脈弁が硬くなり開きにくくなる大動脈弁狭窄症は無症状での経過期間が長く、症状が現れた患者さんの約半数は2年以内に命を落とすといわれています。
【 画像提供 】
※1エドワーズライフサイエンス株式会社
※2日本メドトロニック株式会社
大動脈弁狭窄症に対する治療法は症状の進行度合いによって変わってきます。
症状が軽い場合は、薬による内科的治療が選択されますが、これは症状を和らげたり進行を抑制することを目的としており、狭窄した弁の根本的改善の治療というわけではありません。
よって、重度の狭窄においては弁を取り換える事が唯一の根治療法となります。
TAVIは、これまで治療をあきらめていた高齢や重症の患者さんに、治療の選択肢が広がっています。
東部病院でも弁膜症治療の選択肢の1つとして提供しています。
年齢による体力低下、その他の疾患などによるリスクの為に手術が困難な患者さんが、
新しい治療の選択肢として選べるようになりました。
従来の外科手術に比べてより低侵襲( 痛みや出血などが少ないこと)で
入院期間も比較的短くなることが期待できます。
開胸することなく、また心臓も止めることなく、カテーテルを使って人工弁を患者さんの心臓に留置します。
従来の手術に比べて体への負担が少ないというメリットがあります。
心臓弁膜症の治療法は、薬による治療と、人工弁に取り換える弁置換の2つの方法がありますが、根本的に治療するには手術による弁置換が一般的です。しかし、弁置換は体にメスを入れる開胸手術となるため、高齢者や持病のある方には負担が大きく、手術を見合わせるケースもあります。
TAVIは名前にもあるように「カテーテル」を用います。カテーテルとは細い管のことで、カテーテルを血管内に挿入し、心臓や血管の病気の検査・治療を行います。
体の一部から挿入するので胸を大きく切開する必要がなく、人工心肺装置も不要なことから、従来の手術に比べて体への負担が少ないというメリットがあります。高齢の方や、心臓や脳に持病のある方、呼吸器機能が悪い方など、外科手術では危険性が高い患者さんに適しています。心臓病では、冠動脈手術や大動脈瘤治療でカテーテルが使われています。
これらの治療と同じように、TAVIでは、折りたたまれた人工弁(生体弁)とバルーンを、足の付け根の動脈などから専用のカテーテルで心臓まで運び、バルーンを膨らませて大動脈弁の位置に装着します。
東部病院では患者さんの状態に適した方法を、医師が選択します。
どちらのアプローチ方法も、身体的負担が少なく、大動脈弁を治療できます。
折りたたまれた人工弁(生体弁)とバルーンを装着したカテーテルを足の付け根の動脈などから挿入。
生体弁が大動脈弁の位置に到達したらバルーンを膨らませ、生体弁を広げて留置。
留置後はカテーテルを抜きとります。
鉛筆ほどの太さに折りたたまれた生体弁を装着したカテーテルを、太ももの付け根にある大腿動脈から入れて心臓まで運びます。
動画提供:エドワーズライフサイエンス株式会社
動画提供:日本メドトロニック株式会社
肋骨の間を小さく切開し、そこから折りたたまれた生体弁を装着したカテーテルを心臓の先端(心尖部)を通じて挿入します。
動画提供:エドワーズライフサイエンス株式会社
胸を小切開し(胸骨上部正中切開、
もしくは肋間開胸)上行大動脈から
生体弁を挿入します。
胸部を少し切開して、鎖骨下動脈から
カテーテルを通します。
東部病院のハイブリッド手術室。
血管内治療から開腹・開胸の手術まで様々な術式に対応。
災害時にも治療が続行できるよう無停電化を実現しているのも特徴です。
東部病院のハイブリッド手術室。
血管内治療から開腹・開胸の手術まで
様々な術式に対応。
災害時にも治療が続行できるよう無停電化を
実現しているのも特徴です。
TAVIは体に対する負担が心臓外科手術より低く、手術リスクの高い方、ご高齢の方にも受けていただけるカテーテル治療です。
また入院期間も短いのが特徴です。
当院は多くの選択肢をもっており、患者さん一人ひとりに合わせ、最適な治療を提案できるように外科内科の垣根を超えたハートチームで治療を行っています。
東部病院では、「ハートチーム」を結成し、
2012年末から始動しています。
担当医が所属する診療科の治療法を
優先するのではなく、診療科の垣根を越え、
医師やスタッフ同士が話し合い、
それぞれの患者さんに合った
最適な治療法を提案します。
治療後も、継続してハートチームがサポートします。
心臓血管外科 部長 飯田泰功 (いいだ やすのり)
大動脈弁狭窄症の標準治療は、外科手術です。しかしながら高齢の方や、心機能が低下している方、前回心臓手術歴がある方など、人工心肺を用いて心停止下に行う外科手術がハイリスクである患者さんに対して、当院では2014年2月からTAVI( 経カテーテル大動脈弁留置術:タビ) の治療を開始しました。
当院では、内科医、外科医、麻酔科医、臨床工学技士、看護師、含めたハートチームによる綿密な協議のもとで、この治療を安全に留意しながら行っています。外科手術に比べ入院期間が短く、ハイリスクの患者さんでも生活の質を落とすことなく治療することを目指しています。高齢の方でも治療をあきらめない方々にはぜひ、お話を聞きに来ていただけたらと思います。
心臓血管麻酔専門医 秋山容平(あきやま ようへい)
TAVIは通常の開胸手術より患者さんの体への負担は小さく、手術の後の痛みも少ないです。しかしながら、TAVIは基本的に外科手術が困難な患者さんが対象となる手技ですので、御高齢であったり、他の病気があったりして、全身麻酔を施行するにはリスクがある事が多いです。また手術中には刻一刻と変わる患者さんの状態に対応するために、麻酔科医による繊細な全身管理が求められます。当院は心臓血管麻酔認定施設であり、TAVIの経験も豊富です。ぜひ安心して当院で治療を受けてください。
術前よりも元気に、患者さんにとって
最高の社会復帰を目指す
心臓リハビリテーションチーム
患者さんによっては病気をきっかけに体力が低下したり、精神的に落ち込むことで生活の質(quality of life) が低下することは珍しくありません。私達が行う心臓リハビリテーションは「社会復帰」という概念のもと、患者さんと共に目標を考え、それを実現するためのサポートを行う包括的なプログラムです。
当院の心臓リハビリテーションチームは、術前には身体機能評価と術後の円滑なリハビリのための指導を行い、術後には患者さんに則した運動療法の提供、様々な不安を解消するカウンセリング、再発予防のための指導を行います。それによって患者さんが術前よりも元気に日常生活を送り、社会生活への復帰ができるようなお手伝いをしていきます。
東部病院ではオープンなカンファレンス(患者さんの症例検討会)が頻繁に行なわれており、参加させていただいている当院とは、密接な連携ができています。書面ではわかりにくい内容のやりとりも電話などでタイムリーに共有しています。
大動脈弁狭窄症で、すでに動悸や息切れなどの症状が出ている高齢の患者さんにおいては、外科手術では体力的に負担が大きい場合があります。そのような場合にTAVIは非常に有効な治療です。実際に当院の患者さんもTAVIを受けましたが、お元気で過ごされており、東部病院での術後のフォローも手厚く、感謝しています。
TAVIの導入で弁膜症手術を
諦めていた方でも治療できる
可能性が高まりました。
東部病院では、予約不要でどなたでも
受診できる「弁膜症外来」を開設しています。
弁膜症やその治療で悩んでいる方は
お気軽にご相談ください。
月・木曜日にお越しになれない方でも、
平日毎日(受付 8:30~11:00)初診受付しております。