Ⅰ.済生会横浜市東部病院外科後期研修修練カリキュラム
外科初期臨床研修プログラム修了者のためのカリキュラムであり、基礎的臨床技術および臨床研究・研究発表などの技術が習得できるように計画されている。研修期間は原則として3年間であり、研修終了時には外科専門医を取得できるだけの経験、実績を身につける。研修の領域は、一般消化器外科・血管外科・乳腺外科・呼吸器外科・救急外科とする。希望すれば心臓外科研修も可能である。
済生会横浜市東部病院外科のVISION(あるべき姿)、MISSION(なすべきこと)、特徴は以下のごとくである。
VISION: | ①最高の医療を提供する外科 ②多くの多彩な症例に囲まれる外科 ③レジデントに選ばれる外科 |
MISSION: |
①横浜東部地域住民に最高の外科医療を提供すること |
特徴: | ①救急部の救急外科と一体に運営しているため、腫瘍外科だけでなく外傷・急性腹症などの救急症例を豊富に経験できることが最大の特徴である。 ②消化器外科・血管外科・乳腺外科・呼吸器外科・救急外科をローテンションするので、一般消化器外科医として経験することが望ましい分野を全て経験できる。 |
2010年 手術件数(消化器外科・血管外科・乳腺外科・救急外科)
総手術件数:1504
食道癌:14 胃癌:130 大腸癌:223 肝胆膵癌:57 胆道良性:163 血管:157 乳腺:108など
現在の後期研修医:2010年は後期研修医9名が在籍していた。大学および他病院からの派遣が3名、当院救急部からの派遣が1名、当院独自採用が5名である。現在日本の外科医療はどこも人不足であり、外科医を志望する若手医師が激減している中で、われわれは多くの後期研修医に恵まれている。後期研修医に十分な教育を提供することが、われわれの使命と考えている。
後期研修終了後の進路:慶應義塾大学外科学教室へ優先的に入局できる。また各種癌センターなどへの推薦も可能である(国立がんセンター、静岡県立がんセンターなど)。希望すれば後期研修終了後、2年間の専修医修練過程もある。
1.一般目標
1)一般目標1(総論的)
国民のニーズにこたえるべく、レベルの高い均質な、包括的で全人的な外科診療を実践できる外科医を養成するため、以下の4項目を到達目標として、段階的に進む研修を実施する。3年間の研修で、研修終了時には外科専門医を取得できるだけの経験、 実績を身につける。 研修の領域は、 一般消化器外科、 乳腺外科、 血管外科、 呼吸器外科、 救急部とする。
1) 外科医として、適切な外科の臨床的判断能力と問題解決能力を修得する。
2) 手術を適切に実施できる能力を修得する。
3) 医の倫理に配慮し、外科診療を行う上での適切な態度と習慣を身に付ける。
4) 外科学の進歩に合わせた生涯学習を行うための方略の基本を修得する。
2)一般目標2(各論的)
卒後初期臨床研修を修了した後、外科学総論、基本的手術手技および一般外科診療に必要な外科診療技術を修得する。また、外科サブスペシャルティの特徴も修得させる。
1) 外科総合カリキュラムとして学習する。
2) 外科サブスペシャルティに共通する外科の基本的問題解決に必要な基礎的知識、技能および態度を修得する。
注1 | 基礎的知識とは外科に必要な局所解剖、病理・腫瘍学、病態生理、輸液・輸血、血液凝固と線溶現象、栄養・代謝学、感染症、免疫学、創傷治癒、術後疼痛管理を含む周術期管理、麻酔学、集中治療、救命・救急医療(外傷・熱傷)などすべてを包括する。 |
3) 座学としてではなく、実地臨床症例を教師とし、体験から自己学習を促進する。
2.到達目標
1)到達目標1:外科診療に必要な下記の基礎的知識を習熟し、臨床応用できる。
(1)局所解剖:手術をはじめとする外科診療上で必要な局所解剖について述べることができる。
(2)病理学:外科病理学の基礎を理解している。
(3)腫瘍学
①発癌、転移形成およびTNM分類について述べることができる。
②手術、化学療法および放射線療法の適応を述べることができる。
③抗癌剤と放射線療法の合併症について理解している。
(4)病態生理
①周術期管理などに必要な病態生理を理解している。
②手術侵襲の大きさと手術のリスクを判断することができる。
(5)輸液・輸血:周術期・外傷患者に対する輸液・輸血について述べることができる。
(6)血液凝固と線溶現象
①出血傾向を鑑別できる。
②血栓症の予防、診断および治療の方法について述べることができる。
(7)栄養・代謝学
①病態や疾患に応じた必要熱量を計算し、適切な経腸、経静脈栄養剤の投与、管理について述べることができる。
②外傷、手術などの侵襲に対する生体反応と代謝の変化を理解できる。
(8)感染症
①臓器特有、あるいは疾病特有の細菌の知識を持ち、抗生物質を適切に選択することができる。
②術後発熱の鑑別診断ができる。
③抗生物質による有害事象(合併症)を理解できる。
④破傷風トキソイドと破傷風免疫ヒトグロブリンの適応を述べることができる。
(9)免疫学
①アナフィラキシーショックを理解できる。
②GVHDの予防、診断および治療方法について述べることができる。
③組織適合と拒絶反応について述べることができる。
(10)創傷治癒:創傷治癒の基本を述べることができる。
(11)周術期の管理:病態別の検査計画、治療計画を立てることができる。
(12)麻酔学
①局所・浸潤麻酔の原理と局所麻酔薬の極量を述べることができる。
②脊椎麻酔の原理を述べることができる。
③気管内挿管による全身麻酔の原理を述べることができる。
④硬膜外麻酔の原理を述べることができる。
(13)集中治療
①集中治療について述べることができる。
②レスピレータの基本的な管理について述べることができる。
③DICとMOFを理解できる。
(14)救命・救急医療
①蘇生術について述べることができる。
②ショックを理解できる。
③重度外傷を理解できる。
④重度熱傷を理解できる。
2)到達目標2:外科診療に必要な検査・処置・麻酔手技に習熟し、それらの臨床応用ができる。
(1)下記の検査手技ができる。
①超音波診断:自身で実施し、病態を診断できる。
②エックス線単純撮影、CT、MRI:適応を決定し、読影することができる。
③上・下部消化管造影、血管造影等:適応を決定し、読影することができる。
④内視鏡検査:上・下部消化管内視鏡検査、気管支内視鏡検査、術中胆道鏡検査、ERCP等の必要性を判断することができる。上部消化管内視鏡検査は、 自身で実施し、病態を診断できる。
⑤心臓カテーテルおよびシネアンギオグラフィー:必要性を判断することができる。
⑥食道内圧検査、食道24時間pHモニター検査、直腸内圧検査、デフェコグラムなどの消化管機能検査:適応を決定し、結果を解釈できる。
⑦呼吸機能検査の適応を決定し、結果を解釈できる。
(2)周術期管理ができる。
①術後疼痛管理の重要性を理解し、これを行うことができる。
②周術期の補正輸液と維持療法を行うことができる。
③輸血量を決定し、成分輸血を指示できる。
④出血傾向に対処できる。
⑤血栓症の治療について述べることができる。
⑥経腸栄養の投与と管理ができる。
⑦抗菌性抗生物質の適正な使用ができる。
⑧抗菌性抗生物質の有害事象に対処できる。
⑨デブリードマン、切開およびドレナージを適切にできる。
(3)次の麻酔手技を安全に行うことができる。
①局所・浸潤麻酔
②脊椎麻酔
③硬膜外麻酔
④気管内挿管による全身麻酔
(4)外傷の診断・治療ができる。
①すべての専門領域の外傷の初期治療ができる。
②多発外傷における治療の優先度を判断し、トリアージを行うことができる。
③緊急手術の適応を判断し、それに対処することができる。
(5)以下の手技を含む外科的クリティカルケアができる。
①心肺蘇生法―ALS(気管内挿管、直流除細動を含む)
②動脈穿刺
③中心静脈カテーテルおよびSwan-Ganzカテーテルの挿入とそれによる循環管理
④レスピレータによる呼吸管理
⑤熱傷初期輸液療法
⑥気管切開、輪状甲状軟骨切開
⑦心嚢穿刺
⑧胸腔ドレナージ
⑨ショックの診断と原因別治療(輸液、輸血、成分輸血、薬物療法を含む)
⑩DIC、SIRS、CARS、MOFの診断と治療
⑪抗癌剤と放射線療法の有害事象に対処することができる。
(6)外科系サブスペシャルティの分野の初期治療ができ、かつ、専門医への転送の必要性を判断することができる。
3)到達目標3: | 一定レベルの手術を適切に実施できる能力を修得し、その臨床応用ができる。 一般外科に包含される下記領域の手術を実施することができる。括弧内の数字は術者または助手として経験する各領域の手術手技の最低症例数を示す。 |
①消化管および腹部内臓(50例)
②乳腺(10例)
③呼吸器(10例)
④心臓・大血管(10例)
⑤末梢血管(頭蓋内血管を除く)(10例)
⑥頭蓋部・体表・内分泌外科(皮膚、軟部組織、顔面、唾液腺、甲状腺、上皮小体、性腺、副腎など)(10例)
⑦小児外科(10例)
⑧各臓器の外傷(多発外傷を含む)(10例)
⑨鏡視下手術(腹腔鏡・胸腔鏡を含む;上記のうち、各分野における各種手術)(10例)
注 | (1)修練期間中に術者または助手として、手術手技を350例以上を経験する。 (2)前記の領域別分野の最低症例数を、術者または助手として経験する。 (3)前記の領域別分野にかかわらず、術者としての経験が120例以上であること。 |
4)到達目標4:外科診療を行う上で、医の倫理に基づいた適切な態度と習慣を身に付ける。
(1)指導医とともにon the job trainingに参加することにより、協調による外科グループ診療を行うことができる。
(2)コメディカルスタッフと協調・協力してチーム医療を実践することができる。
(3)外科診療における適切なインフォームド・コンセントを得ることができる。
(4)ターミナルケアを適切に行うことができる。
(5)研修医や学生などに、外科診療の指導をすることができる。
(6)確実な知識と不確実なものを明確に識別し、知識が不確実なときや判断に迷うときには、指導医や文献などの教育資源を活用することができる。
5)到達目標5:外科学の進歩に合わせた生涯教育を行う方略の基本を修得し実行できる。
(1)カンファレンス、その他の学術集会に出席し、積極的に討論に参加することができる。
(2)専門の学術出版物や研究発表に接し、批判的吟味をすることができる。
(3)学術集会や学術出版物に、症例報告や臨床研究の結果を発表することができる。
(4)学術研究の目的で、または症例の直面している問題解決のため、資料の収集や文献検索を独力で行うことができる。
6) その他:
(1)希望があれば関連大学と連携して学術研究を行うことができる。
(2)消化器外科専門医取得を希望する者はさらに2年間の研修を希望できる。
Ⅱ.到達目標3の年次別必須症例数
手術 | 3年目 | 4年目 | 5年目 | |||
術者 | 助手 | 術者 | 助手 | 術者 | 助手 | |
食道(2, 3) | 1 | 1 | 1 | |||
胃十二指腸(1,2) | 2 | 5 | 3 | 5 | 3 | 5 |
(3) | 5 | 1 | 5 | 2 | 5 | |
小腸結腸(1, 2) | 15 | 10 | 20 | 20 | 20 | 20 |
直腸肛門(1, 2) | 2 | 2 | 2 | 2 | 2 | 2 |
(3) | 2 | 1 | 2 | 1 | 2 | |
肝(1, 2 , 3) | 2 | 3 | 3 | |||
胆(1) | 5 | 5 | 5 | 5 | 5 | 5 |
(3) | 1 | 1 | 1 | 1 | ||
(3) | 1 | 1 | ||||
膵(2) | 1 | 1 | 1 | |||
(3) | 1 | 1 | 1 | |||
脾(2) | 1 | 1 | 1 | 1 | 1 | |
内視鏡(2) | 10 | 10 | 10 | 10 | ||
その他(1) | 5 | 5 | 5 | 5 | 5 | 5 |
(2) | 2 | 2 | 2 | 2 | 2 | 2 |
乳腺 | 5 | 5 | 2 | 3 | ||
呼吸器 | 3 | 3 | 4 | |||
心大血管 | 2 | 4 | 4 | |||
末梢血管 | 2 | 4 | 4 | |||
体表 | 2 | 2 | 2 | 2 | 2 | |
小児外科 | 2 | 2 | 2 | 2 | 2 | |
外傷 | 3 | 3 | 4 | |||
鏡視下手術 | 3 | 3 | 2 | 4 |